優れた十作品の羅列を、おおやけにお見せすることなど、とうていできない、貧しき鑑賞状況にもかかわらず、恥を忍んで発表させていただくのは、ひとえに、『ようこそ、羊さま。』を一人でも多くの方に知っていただきたいという、伝道者まがいの意識によるところからだ。 時間、空気、水などと同じく、人間が関わりを避けることのできない要素に、距離がある。距離の恐ろしさを、省略という技法を徹底して排除しながら表現し続け、それでいて最後には、人間と距離が温かな和解へと達する、別の言い方をするなら、映画と距離が幸福なる調和を成し遂げた結末へと至る瞬間を実現したこの『ようこそ、羊さま。』は、2006年において、突出した輝きを放っていた。 この映画が存在した限り、ある意味、不本意な発表ではあっても、それなりの意味は持つのではないか、と思っている。